ゲスト:ZUN氏(同人サークル「上海アリス幻樂団」代表)
主催:一橋幻想研究会
日時:11月3日(土) 14:00~16:00
会場:一橋大学(国立キャンパス) 東キャンパス2号館2201教室
配布物:一橋祭企画「幻想伝承」補完冊子『幻想郷風説考』
行ってきました「幻想伝承」。
講演内容は可能な限り書き取りましたが、所々抜け落ちているかも知れません。
よって、ZUN氏及び司会の井上様の発言の意図するものと異なる文面になっている可能性がございます。ご了承下さい。
ご指摘及び補完して頂けると助かります。
それでは、2時間にわたる講演内容をどうぞ。
14:00~
・一橋幻想研究会代表、井上さんから企画趣旨の説明
・ZUN氏来場
以下、司会の井上さんとZUN氏により東方作品に関する講義が進行。
<前半の部>
「東方Projectとシリーズ」
・今回、風神録を制作するに至った経緯について
→本来、9作目「東方花映塚」から1年間は休憩期間のつもりだった(東方をしばらく休むことも考えていた)
・風神録で諏訪神社を舞台にした理由について
→地元であるため。設定の一部には独自の考察も含めている。
・東方はシリーズではないことの真意について
→世界観を引き継いでいる(一つの作品である)のでシリーズとして(1や2といった風に)は扱わない。
・音楽CDの立ち位置について
→CDも一つの作品。ゲームと同列として扱っている。
・メディアミックスにおける各ジャンルの位置付け
→ゲームの内容をそのままメディアミックスしても面白くない。各媒体を活かす作り方を。
・アニメ化の話は?
→よくあります。アニメは他のメディアミックスに比べてかける労力が莫大であることから断っている。
・儚月抄が永夜抄の続き物である理由について
→(世界観の説明がある程度省略出来るので)漫画を読む読者への配慮
・新作制作にあたり、旧作から引き継ぐこと
→東方は世界観が先にある。それ以外を変えることによって、新しい作品を生み出す。
ゲーム性は毎回変えている。
風神録はそこまで(周囲で言われているほどには)刷新していない。
・今後、季節が冬の作品は?
→演出が難しい。出すとしたら建物の中?
・新システムに挑戦する上で東方以外を作ろうと思ったことは?
→東方以外の作品を作る理由が無い(変える理由が無い)。
文花帖のような特殊なシステムも東方の中で出来てしまうので。
・メディアミックス作品に必ずCDが付属する理由について
→出版社の要望。気付いたら毎回付いていた。
・「この媒体でこんなことしてみたい」と思ったことは?
→ゲームならば何でも。一番はSTG。
14:50~15:00
休憩
14:00~
<後半の部>
「ゲーム制作論とシリーズ」
・クリエイターがシリーズを作る意義について
→商業、非商業を問わず、一度考えた設定などを使い回すことによって制作コストが減り、その分ゲーム性の向上に尽力出来る。
作品を重ねる毎に世界観が深くなる。
・シリーズは完結を目指すべきか?
→一つの作品が完結すると気持ちのいいもの。しかし東方は完結させにくい。
東方は「これで最後」というものを決めて作ってないので、完結させなくてもいいから作り続けたい。
・儚月抄について
→3部作については出版社の意向。
自分から手を広げようとは思わない。
・東方は二次創作が活発(ZUN氏本人が言及)
・二次創作に関するガイドラインは東方の二次創作が増える過程で制定された。
・ニコニコ動画についても言及
→ニコニコでは色々なものが結び付けられている。
→創作は基本的には過去にあったものを結び付けるもの。
→それが出来るのがクリエイター。
・今年の東方参入者は年毎で言えば過去最大規模
→古参、新参の確執について言及→馬鹿馬鹿しいと思う→楽しむことが大事
・難易度の調整について
→永遠のテーマ。マスター一週間前に決まります。これによってゲームの面白さが決まる。
15:20~
<質疑応答>
メールフォームより
・(当たり判定の表示などの)便利なシステムと難易度の関係について
→盛り込めるシステムは盛り込んだ上で難易度は決めます。
・ZUNさんがお酒持ってないのを見たことがありません
→お酒持ってると安心するんです
会場からの質疑応答
・今までのキャラ造型で一番難しかったキャラ、楽だったキャラは?
→一番難しかったのは慧音。他はラスボス全般。一番楽だったのはチルノ
・東方を作る際に、資料として本をどれくらい読む?
→必要はものは読みます。かなりの冊数。本を読むのは趣味でもあるので。
・東方の世界観はいつから考え始めた?
→原型のようなものは高校時代から。
・スペカのネーミングで気をつけることは?
→ストーリーとはあまり関係ありません。キャラに合わせてます。あまり深い意味は無いです。
・第11回 文化庁メディア芸術祭 OPEN FORM 推薦作品に東方Projectがノミネートされたことについて
→驚いた。東方は国が公式で認めると動きづらいかも。嬉しいけど複雑。受賞されたら(授賞式には)行きます。
・霊夢、魔理沙などが成長して大人になることは?
→成長については明確には決めない。大人の都合で。
・コミケで頒布してる時の気持ちは?
→忙しくて考えられないです。1人1枚の時は考えてる時間が無い。
・出したいキャラ、弾幕の構想は?
→今でも色々とあります。弾幕の方が(考える)難易度が高い。
・旧作キャラの復活は?
→昔のはあまり出したくない。新しいものを出したい。ただ、たまに出すかもしれません。
・横STGを作りたいと思ったことは?
→弾幕には向かない(シンメトリーには向かない)。興味はあるが、個人的には縦STGが好き。
・作曲のイメージについて
→キャラとステージでイメージするが、その通りにはいかないので勢いで作ったりする。
・続編制作で詰まったときは?
→前作の不満点を解消して、それを続編につなげる。
・弾幕で意図的な避け(安置など)を作る?
→特定の狙ったものはある。中には予期しないもの(『生と死の境界』安置やアポロ中避けなど)も。
・キャラが増えている現状で、好きなキャラの出演を望むファンの声への対応は?
→全て叶えることは出来ません。
・東方の時代設定を現代にした理由は?
→現代の話題を活用しやすいから。
・風神録でスペルプラクティスが無い理由は?
→風神録では、過去のシステムが本当に必要かどうか判断するため、システムを一度、全てリセットしたため。
・来年の動きについて
→体験版から製品版の流れです。
・キャラクターを思いつく経緯は?
→キャラによりまちまち。強いキャラはストーリーに関連することが多い。
・楽譜の掲載について
→そのまま出しても弾けるものではないので出しません。何かのおまけで出すことは出来るかも。
・キャラリセットについて
→新作では、基本的には前作のキャラは出しません。
・ゲームをこれからする人にやってほしいゲームは?
→一番売れてるゲームをとりあえずやってみて、それから更にゲームがやりたいなら、その先はその人次第。
16:00
質疑応答終了
最後に
<ゲーム創作について>
・あまり手順を考えない。
・今必要なことを少しずつやっていく。
・(プレイヤーに対して)プレイしてくれ有難う。
・二次創作について言及
→どんどんやって下さい。
・カラオケ配信などについても言及
→やっても構いません。ただ、それらの方針と原作は関係無いものとして扱います。
※この文面については、実際にZUN氏が仰っていた内容と異なるニュアンスになってしまっている可能性がございます。
触れているテーマの関係上、ややデリケートな性質ですので、文面そのままでお受けとめにならないようご注意下さい。
16:05
閉幕
<雑感>
知人の方のレポなどを参考にしつつ。
来場者数は立ち見(当日抽選)も含めて約400人?
質疑応答で以外と突っ込んだ内容の質問が多かったのが印象的でした。
わりと気になっていた疑問点が解消できて満足。
今回の講演は基本的には、
・商業との関わり
・東方Projectについて(シリーズやゲーム性の話)
この2つが軸だったと思います。
商業に関する話題は、普段あまり語られないので非常に貴重だったと思います。
ZUN氏のスタンスは、…何と言えばいいのでしょう。
噛み砕いて言えば、「邪魔もしないし必要以上の援助もしない」ということでしょうか。
そのスタンスを貫き続けることこそが、東方の原作の強度を保つことに繋がるのでしょう。
ZUN氏のこの考え、ニコ動やメディアミックス、二次創作に溢れている現状に即していますね。
そういった周囲の環境を見越した上での考えなのかも知れません。
そして、東方Projectを通して語られたゲーム創作についての話では、ゲーム性の追及に込められたZUN氏の創作者としての姿を垣間見ることが出来ました。
<まとめ>
今後も、東方Projectは新作が作られていくでしょうし、それに伴って二次創作が作られ、香霖堂や儚月抄のようなメディアミックス作品が出るかも知れません。
東方ジャンルから離れていく人もいるかも知れませんし、新しく東方を知って入ってくる人もいるでしょう。
東方Projectが一つの世界観の中で連綿と受け継がれているように、「東方ジャンル」という中でも二次創作やそこに関わる人達は移り変わっていきます。
願わくばその流れの中で、東方が継承されどのように終着するのか、見届けることが出来れば幸いです。
<関連>
■幻想伝承
■第38回一橋祭 シンポジウム企画特集 「幻想伝承~創作の継承と終着~」
■一橋大学の 幻想伝承 レポートまとめ
■次世代同人フレームワークとしての「東方Project」